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May 14, 2020 - 10 minute read - Comments - review

[書評] 情報と向きあい、より深い思考をするためにインテグラル・シンキングを読んだ

「インテグラル・シンキング ――統合的思考のためのフレームワーク」を読んだので感想をまとめた。

所感

普段技術書ばかり読んでしまい久しぶりにエンジニアリング以外の本を読んだがわかりやすくよい本だった。 世の中にあふれる情報とどう向き合うか考えるため手にとった。
ニュースなどの情報に対する向き合いかたに限らず、日々の生活の中に発生する議論やコミュニケーションの中にも役立つ視点を得られた。
私は「ゼロイチ(どちらかの意見が正しい。どちらかは間違っている)」みたいな考え方をしてしまう短絡的な人間なのだが、 「どのような視点を重視してこの意見になっているのか?」「ふたつの意見(方針)の視点の違いを合わせることでよりよい意見(方針)を想像できないか?」のような昇華を考えられるようになった。

どんな本なのか

本著はアメリカの思想家ケン・ウィルバーが提唱した「インテグラル理論」に基づいて、私達を取り巻く膨大な情報との向き合い方を解説した書籍だ。
現在、私達はテレビや新聞、ニュースと言った公共の情報から、Twitterなどの街角(?)情報、学業や仕事に関わる情報、意見などに多くの情報に囲まれて生活している。
すべてをチェックするのは不可能なほどの情報量だし、ときには正反対の情報が一緒に流れてきて混乱することもあるだろう。
本著では現代社会の中での如何に鑑識眼を持って情報と付き合っていくか、「インテグラル理論」の概要をまとめながらその活用方法がまとめられている。

なぜ読もうと思ったのか

2020年春はCOVID-19にまつわる色々で身の回りの状況が変わってきた。 (私がtwitterやTVを見ることが多くなっただけなのかもしれないが、)それに伴いどの情報が正しいのかわからないさまざまな主義や主張を見かけるようにもなった。 ネガティブな情報や不安を煽るような意見にふれるとストレスがかかるが、すべてに耳を塞いでしまうわけにもいかない。 そもそもノンストレスな情報が正しく、ストレスフルな情報が間違っているというわけでもない。 また、自分に心地よい(自分と同じ)意見ばかり取得するのも偏向してしまうだろう。 世の中にあふれる情報とどう付き合っていけばいいのか?を考えるため手にとった。

読んでわかったこと

書籍を読んで得られたことを大まかにまとめる。

自分の捉え方がバイアスによって成り立っていることを受け止める。

まず、自分も含めすべての意見や情報にはなんらかのバイアスがかかっており、主張者・作成者のレンズからみた世界になっている。

結局のところ、「知る」という行為は、その人の独自の「レンズ」を通して世界をとらえるということです。ひとつひとつのレンズは、その持ち主の感性にもとづいています。また、ひとつひとつのレンズは、その持ち主が生きている時代や社会の文化的・文明的な条件の影響の下に形成されています。世界のどこにも「これこそがいっさいの偏見を排して世界を完全にありのままにとらえている」といえるようなレンズはないのです。

鈴木 規夫. インテグラル・シンキング 統合的思考のためのフレームワーク (Japanese Edition) (Kindle の位置No.287-291). コスモスライブラリー. Kindle 版.

自分の主義主張はももちろん、どんなにニュートラルに考えたとしても、育ってきた文化や環境の影響がない情報は存在しない。 ありのままのレンズがないこと(自分が正しく事象をみれていないこと・すべての情報にはなんらかのレンズを通して得られるものであること)を受け入れる。

多様な意見に対して「便宜的な一般化」を行なう。

「便宜的な一般化」を考える。 それぞれの意見の共通基盤となる基本的な事実を認識し、言葉を与え、そこに意識を向ける。 そして、より完全な全体像へ近づくために多方面から統合的に思考を試みる必要がある。

無数に存在する多種多様な情報を整理・統合するための方法として、インテグラル理論は「便宜的な一般化」(orientinggeneralization)という方法を用います。難しそうな言葉ですが、その意味するところは非常にシンプルです。〝orienting〟とは、共同作業を進めていくための共通基盤を築くために、関係者に基本的な事実を認識してもらい、その意識を方向づけするということです。そして、〝generalization〟とは、多様な情報の中に存在する共通事項を見極めて、それに言葉を与えるということです。

鈴木 規夫. インテグラル・シンキング 統合的思考のためのフレームワーク (Japanese Edition) (Kindle の位置No.337-342). コスモスライブラリー. Kindle 版.

4つのカテゴリー

では、共通基盤となる根本は一緒なのに、どうして相容れない意見になるのか。 インテグラル理論では、4つに分けた領域のどれを重視(あるいはどれに注視)しているかによって変わると考える。 4つの領域とは次の表の通り。

内面 外面
個の内面 個の外面
集合 集合の内面 集合の外面

これらの領域の検討の中で意識したり、あるいはすべての領域に働きかけることを考えることができれば良い。

  • 個の内面
    • 個人があるトピックに対してどう感じているのか
    • 例:会社の施策に対して自分はどう思っているのか
  • 個の外面
    • 第三者が観察できる個人の具体的な行為。
    • 例:寝坊が多くなった。プルリクエストの数が多くなった。
  • 集合の内面
    • 組織や集団がどのように感じるのか
    • 例:ある施策が実施されたあと、議論が少なくなった。残業が少なくなった
  • 集合の外面
    • 第三者からみて客観的に観察できる
    • 例:会社に新制度が策定された。コミュニティへの新規参加が招待制になった。

自分がどの領域を重視・軽視しているのか受け止める

本著には4つの領域を注視していくとどのようになるのか、またどのような弊害が生まれるのかが記載されている。

たとえば、個の内面を重視することは、次のように述べられている。

ここで重視されているのは、自らの内面的な真実に対して正直であるということ、誠実であるということです。英語では〝authentic〟という言葉を用いますが、これは自らの内面領域の真実を誤魔化したり、歪曲したり、糊塗したりすることなく、ありのままに受容するということを意味します。いうまでもなく、私たちは、日常的に──自分に対して、そして、他者に対して──たくさんの嘘をつきながら生活をしています。それらの中には、日常生活の中で無用な軋轢を生じさせるのを避けるための、必要な嘘もあります。ときとして、嘘は人間関係の潤滑油となってくれるのです。しかし、真に重要な問題について思案するときには、私たちは自らの内面的な真実に誠実になる必要があります。結婚について、別離について、出産について、就職について、転職について、病気について、使命や天命について、生と死について……。こうした重要な問題について探究するとき、私たちは自分に嘘をつかないようにしなくてはなりません。

鈴木 規夫. インテグラル・シンキング 統合的思考のためのフレームワーク (Japanese Edition) (Kindle の位置No.750-759). コスモスライブラリー. Kindle 版.

いずれにしても、左上領域に対する感性を高めるためにまず重要となるのは、自らに与えられている主観領域の存在を認識して、その重要性を尊重するということです。つまり、自己の主観領域を軽視するのではなく、それが重要な情報や洞察の源であることを認識して、その重要性を実感するのです。

鈴木 規夫. インテグラル・シンキング 統合的思考のためのフレームワーク (Japanese Edition) (Kindle の位置No.762-765). コスモスライブラリー. Kindle 版.

また、それぞれの領域を過剰に重視することで発生する弊害についてもまとめられている。

個の内面領域が肥大化するとき、私たちは、ときとして、過剰な潔癖主義にとらわれてしまいます。高いものを追及するあまり、現実のありのままを受け容れることができなくなるのです。このとき、私たちは、心の中に創り上げたビジョンに呪縛され、世界や他者をそれに強引に従わせようとすることになるのです。

鈴木 規夫. インテグラル・シンキング 統合的思考のためのフレームワーク (Japanese Edition) (Kindle の位置No.836-839). コスモスライブラリー. Kindle 版.

それぞれの解説を読むと自分が普段どの領域を重視しているのかが浮き上がってくる。 自分がどの領域を重視しすいのか、逆にどの領域の視点が抜けているのか考えさせられた。

知性の成長段階を意識し、インテグラル理論を深めていく

4つの領域の存在を理解したあとは、インテグラル理論を確立して情報を見極める鑑識眼を養っていく。 鑑識眼を確立するためには5つの成長段階があると述べられていた。

  1. 自己の専門性を確立する
    • 自らの選択した領域で型を実践し、情報(見解や洞察)を自ら創造する
    • 型を実践し、情報を把握、得られた洞察や情報が妥当なものかを確認する
  2. 専門外のことも複数のレンズ(方法論)を通して観察する
    • ひとつのレンズ(自分の見方)に執着する気持ちを克服する
  3. 4領域中の複数の領域に視野を広げていく
    • 複数のレンズを使いこなし、複数の文脈を縦横に移動する
    • 「静と動」、「自己肯定と自己否定」というような対極の間を移動する
  4. 複数の文脈を移動するだけでなくそれらの叡智や体験の統合を試みる
    • 文脈を超えてそれぞれの文脈の基に流れる大きな物語や枠組みを構想する
    • 特定の領域に完全に集中するのではなく、領域と領域を結びつけることに主要な関心を移す
  5. 世界を「一」なるものとして把握する
    • 世界というものが本質的に統合されてものであると認知する
    • 世界が多数の要素を寄せ集めたものではなく、常に「1つ」のものであることを認識する

ただ、これまでにも見てきたように、そうした意識の鍛錬が真に意味のあるものとして実感されえるには、基本的な思考能力を確立しておくことが重要となります。その意味でも、着実に自己の思考力を育成していくことは重要なのです。第一段階~第五段階までの思考能力の発達のプロセスを概観すると、それが限定的な視点や枠組みの束縛を徐々に克服していくプロセスであることが認識されます。つまり、それは「これこそが正しい見方である」という限定的な発想を克服して、意識を世界のありのままの複雑性と多面性に開いていくプロセスなのです。

鈴木 規夫. インテグラル・シンキング 統合的思考のためのフレームワーク (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1904-1909). コスモスライブラリー. Kindle 版.

やや哲学的なところも大きいが、少しずつ意識を変えていくステップはわかりやすかった。 本著の後半では「自律性と関係性」「質と量」などの具体的な対極の関係性の間をどう行き来するのか、どう向き合うのかという指標も示されている。

今後どう活かすのか

(改めて書くと我ながら性格が悪いなと思うが、)恥ずかしながら今まで自分と違う見方や意見に出会ったとき、次のように思うことが多かった。

  • (自分の意見が合っていると思うから)同じ意見にしてみせるぞ
  • きっとどこか相手に考慮漏れがあるから自分と異なる意見になっているに違いない

しかし、本著を読んだあと思うことは、自分と異なる意見や見方に出会ったとき、その差異の原因を考えることで自分の考えをより深化することができるチャンスだと思えるようになった。 なぜそのような意見になってしまうんだ!と訝るよりも自分の思考を深めたり異なる意見が大事にしている点を考えてみる。 そのほうが議論も深まるし、自分を研ぎ澄ますことができそうだ。

  • あの人(この情報)は何を重視しているからあのような意見になったのだろうか?
  • 自分の意見と相手の意見はどこまでが共通の意見の上に成り立っているんだろうか?
  • 自分が重視している点は本当に重視すべき点なのか?

耳障りがよくない情報と出会ったときでもそれを糧に思考を深められるようになったのが大きな収穫だった。

また、原点にあたるという意味でケン・ウィルバー本人執筆の「インテグラル理論」も読んでみたいと思った。
Kindle版は目次が正しく生成されていないので、目的から移動できないのは少し残念な点だった。

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