組織で成果を上げるために必要な知識として心理的安全性に関する本を読んだ。
所感
二次・三次ソースなどで心理的安全性を考えることが多かったので本著で心理的安全性の概念・効果を知ることができてよかった。 本著は次のような3部構成となっている。
- 第1部「心理的安全性のパワー」
- 心理的安全性の概念の説明。
- 職場における重要性の研究史の紹介
- 第2部「職場の心理的安全性」
- 官民両セクターの組織での実例を元にしたケーススタディ
- 心理的安全性(またはその欠如)が業績と人々にどう影響するか
- 第3部「フィアレスな組織をつくる」
- リーダーがどんなことをすればフィアレスな組織をつくりだせるか?
概念、実例、活用方法と段階的に理解を深めることができ、とても読みやすかった。
実例では、「失敗の科学」で出てきた実例や3.11の福島原発事故が実例として紹介されており一度聞いたこと、身近なことだったので頭に入ってきやすかった。
どんな本なのか
https://www.amazon.co.jp/dp/B08R8KBZKZ
Amazonの書籍紹介より引用。
『チームが機能するとはどういうことか』の著者であり、2011年以来、経営思想家ランキング「Thinkers50」に選出され続けている、エイミー・C・エドモンドソン教授最新刊!
Googleの研究で注目を集める心理的安全性。 このコンセプトの生みの親であるハーバード大教授が、 ピクサー、フォルクスワーゲン、福島原発など様々な事例を分析し、 対人関係の不安がいかに組織を蝕むか、 そして、それを乗り越えた組織のあり方を描く。
なぜ読もうと思ったのか
心理的安全性は定期的に話題になるトピックだ。「誰でも居心地がいい環境」「批判されない環境」ではないことはなんとなくわかっていたが、実際の定義はよくわかっていなかった。
また、心理的安全性があるとよいのはわかっているけれども、心理的安全性があると具体的にどのような効果があると言われているのか知らなかった。
読んでわかったこと
書籍で挙がっていたキーワードを整理しておく。
心理的安全性とは?
心理的安全性とは対人関係のリスクを取っても安全だと信じられることである。
みんなが率直の意見を言うことが可能である(とは言え非建設的なことを繰り返したり、攻撃なことを言ってもいいわけではない)。
心理的安全性とは、大まかに言えば「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」のことだ。
より具体的に言うなら、職場に心理的安全性があれば皆、恥ずかしい思いをするんじゃないか、仕返しされるんじゃないかといった不安なしに、懸念や間違いを話すことができる。
考えを率直に述べても、恥をかくことも無視されることも非難されることもないと確信している。
対人関係のリスクを取っても安全だと信じられる職場環境であること。それが心理的安全性だと、私は考えている。
意義ある考えや疑問や懸念に関して率直に話しても大丈夫だと思える経験と言ってもいい。
心理的安全性は、職場の仲間が互いに信頼・尊敬し合い、率直に話ができると(義務からだとしても) 思える場合に存在するのである。
心理的安全性とは、支援を求めたりミスを認めたりして対人関係のリスクを取っても、公式、非公式を問わず制裁を受けるような結果にならないと信じられることだ。
心理的に安全な環境では、失敗しても支援を求めても、ほかの人たちが冷たい反応を示すことはない。
それどころか、率直であることが許されているし期待されてもいるのだ。
心理的安全性がある職場とは、みんなが肯定的な反応してくれる職場ではない
「自分の意見にみんなが賛成してくれる環境」でもない。
心理的安全性がある環境では(みなが率直に意見をいうので)むしろ自分の意見に反対意見がたくさん出ることすらある。
心理的に安全な環境で仕事をすることは、感じよくあるために、誰もがいつも相手の意見に賛成することではない。
あなたが言いたいと思うあらゆることに対して、明らかな称賛や無条件の支持を得られるわけでもない。
むしろ、その正反対だと言ってもいい。心理的安全性は、率直であるということであり、建設的に反対したり気兼ねなく考えを交換し合ったりできるということなのだ。
心理的安全性の必要性
優秀なメンバーを集めるだけでモノゴトは成功しない。
組織が成功を納めるためには優秀なメンバーがパフォーマンスを発揮できる環境、心理的安全性が担保されている環境が必要になる。
心理的安全性が確保された組織では次の活動が促進される。
- ミスや失敗の学習
- イノベーションの創出
そして心理的安全性が担保された組織を作るのはリーダーの義務である。
イノベーションが成否のカギを握る世界で組織が本当に成功するためには、優秀で意欲的な人を採用するだけでは十分ではない。
今や大半の仕事において、人々はよく話し合い、次々と形を変える相互依存の体制を整えるよう求められる。
現代経済で私たちが価値を置くほぼすべてのものが、相互依存的な判断と行動──相互依存的であるがゆえに、効果的に協働しなければ成果の出ない判断と行動──から生まれている。
不安があると、効果的に考えたり行動したりする力が制限されてしまう──ずば抜けて有能な従業員であっても、である。
今日のリーダーは、組織から不安を取り除いて学習・イノベーション・成長できる状況をつくるという仕事を、進んで引き受けなければならない。
Googleが行なったプロジェクトアリストテレスでも心理的安全性の有用性が示されている。
グーグルのずば抜けて優秀で有能な社員でさえ、持てる力を確かに役立てるには心理的に安全な環境が必要であることを、彼らは突きとめた。
また、ほかにも四つの要因──明確な目標、頼れる仲間、個人的に意味のある仕事、その仕事に影響力があるという信念──が、チームのパフォーマンスに影響することを見出した。
協働のためにはみなが意見を言える環境が必要
協働のためには職場に率直さ、素直さが必要になる。
- 集まった人が心に思っていることを述べないかぎり、より賢く考えることはできない
- あなたには自分の意見や考えを、ともに仕事をする人々に伝える義務がある
心理的安全性があれば全員が意見を交換し、よりよい答えにたどり着くことができる。
率直さが職場の文化の一部になっていると、人々は発言を禁じられているように感じない。
考えを胸にしまっておくこともない。皆、思うことを述べ、アイデアや意見や批判を共有する。
理想的な場合は、ともに笑いながら、やかましいくらいに話をする。
効果的にフィードバックするグループにふさわしい人材の選び方について、次のようにアドバイスする。
曰く、その人材とは「より賢く考える力をもたらし、短時間に多くの解決策を提案できる人」でなければならないという。
より賢く考える力をもたらす人を集めるというスタントンの重要なアドバイスは、革新と進歩に心理的安全性が不可欠である理由の核心を突いている。
集まった人が心に思っていることを述べないかぎり、より賢く考えることはできないのだ。
彼の主張に詳しく検討する価値があると思うのは、「あなたには自分の意見や考えを、ともに仕事をする人々に伝える義務がある」ことが示唆されているためだ。
ある意味、あなたの意見や考えは、あなたや人々が所属する企業のものと言える。
ゆえに、胸に秘めている権利はあなたにはないのである。
心理的安全性は作れる
心理的安全性はリーダーによって作られる。特定の業界だから作れる・作れないではない。
心理的安全性は、単なる職場の個性ではなく、リーダーが生み出せるし生み出さなければならない職場の特徴だということである。
さらに次のこともわかっている。私がその後研究してきたどの会社や組織においても、きわめて強力な企業文化を持つ場合でも、心理的安全性はグループによって著しく異なっていたのだ。
心理的安全性は、グループ内の相性がよくて生まれるものでも、知らぬ間に生まれるものでもなかった。
明らかなのは、心理的安全性の条件をうまくつくり出せるグループ・リーダーがいる一方で、つくり出せないリーダーがいることだった。
心理的安全性と信頼
心理的安全性と信頼は異なる概念である。 「信頼」は個人間で発生する。「心理的安全性」は職場集団の中に存在する。 「Aさんには何でも話すことができる」は心理的安全性ではなく、Aさん個人に対する「信頼」である。
laern-what
とlearn-how
laern-what
- 自主的な行動が中心。読書やeラーニングなど
learn-how
- チームベースの学習。知識共有やディスカッションなど
知識集約型の組織のプロセス改善にはlearn-howな行動が求められる。
learn-how
な行動には心理的安全性が不可欠である。
心理的安全性の重要性がそれほど高くなかった頃はlaern-what
な学習でも十分だった。
治療室のプロセス向上のためにとった行動を報告してもらったところ、それらは顕著に違う二つの学習行動に分けられることがわかった。
すなわち、「ラーン・ホワット(learn-what)」と「ラーン・ハウ(learn-how)」の二つである。
「ラーン・ホワット」は自主的な行動が中心であり、たとえば、医学文献を読んで最新の研究結果を把握するなどの行動が挙げられる。
これに対し、「ラーン・ハウ」はチームベースの学習であり、知識を共有したり、提案したり、よりよいアプローチをブレーンストーミングで話し合ったりといった行動を指す。
心理的安全性を確立するためのリーダーのツールキット
心理的安全性を生み出すリーダーになるためには次のようなツールを駆使する。
カテゴリー | 土台をつくる | 参加を求める | 生産的に対応する |
---|---|---|---|
リーダーの務め | 仕事をフレーミングする | 状況的謙虚さを示す | 感謝を表す。 |
目的を際立たせる | 探究的な質問をする | 失敗を恥ずかしいものではないとする | |
仕組みとプロセスを確立する | 明らかな違反に制裁的処置をとる | ||
成果 | 期待と意味の共有 | 発言が歓迎されているという確信 | 絶え間ない学習への方向づけ |
状況的謙虚さ
状況的謙虚さとは次のようなこと。
- 私自身が、「正しい答えを持っているわけではないこと」をメンバーに自己吐露すること、
- だからこそ、「私自身も、アンテナ高く、状況から学んでいく必要があること」をメンバーに自己開示すること
リーダー自信が無知を白状し、傾聴の姿勢を示す。
学習する組織になるために必要なメッセージ
心理的安全性を確保した組織が「学習する組織」になるためには、リーダーは失敗を許容する姿勢を見せる必要がある。
学習する組織の価値観とその実践を確実にするメッセージはこれだ。
「間違ってもいいし、他人によく思われない意見を持っても構わない。ただし、出てきた結果から積極的に学ぶことが条件だ」。 何より重要な目的は、起きたことからどうすれば組織が学習できるかを考え出すことである。
お気づきのとおり、心理的安全性が基盤になって、学習する組織が築かれる。
絶え間ない学習と迅速な実行によって価値ある存在であり続けようと思うなら、組織は不安のない環境をつくり率直な発言を促す必要があるのだ。
複雑で不確かな現代世界で成功するためには、どのような企業のリーダーも、熱心に耳を傾け続けなければならない。
失敗から学習する組織
心理的安全性を確保することで組織は賢い失敗をし、失敗から学び、その学びを共有する組織になる必要がある。
失敗の典型例(定義とコンテキスト)
失敗にもいくつかの分類がある。
回避可能な失敗 | 複雑な失敗 | 賢い失敗 | |
---|---|---|---|
定義 | 既知のプロセスから逸脱し、望まない結果が起きる | 出来事や行動がかつてない得意な組み合わさり方をして、望まない結果が起きる | 新たなこと始めて、望まない結果が起きる |
共通する原因 | 行動・スキル・注意の欠如 | 慣れた状況に複雑さ・多様性・かつてない要因が加わる | 不確実性・試み。リスクを取ること |
特徴を示す表現 | プロセスからの逸脱 | システムの破綻 | うまくいかなかった試み |
典型的なコンテクスト | 製造業の生産ライン。ファストフード店。公共事業やサービス | 病院での医療。NASAのシャトル計画・航空母艦。原子力発電所 | 医薬品開発。新製品の設計 |
心理的安全性をつくるために、失敗を恥ずかしいものではないとする
従来の仕組み | 失敗を恥ずかしいものではないとする新たな枠組み | |
---|---|---|
失敗に対する考え方 | 失敗は受容できない | 試みに失敗はつきものである |
高い業績についての考え方 | 高い業績をあげる人は失敗しない | 高い業績をあげる人は賢い失敗をし、失敗から学び、その学びを共有する |
目標 | 失敗を回避する | 素早い学習を促進する |
枠組みがもたらす影響 | 保身のために失敗を隠す | 率直に話し合い、素早く学びイノベーションを起こす。 |
イノベーションの創出に心理的安全性は必須
心理的安全性は失敗から学習するために必要なだけではなく、イノベーションの創出にも必須である。
ミスや失敗を共有することで学習を促し、大きなリスクを防ぐという観点から、心理的安全性は語られることが多い。
しかし、心理的安全性の真骨頂はイノベーションの創出過程であると私は考えている。
意見の衝突が起こる場合、心理的安全性が高ければ、チームメンバーは互いの意見に耳を傾けて、意見の相違から新しい価値を学習できたが、心理的安全性が低い場合に学習はあまり起きていなかった。 したがって、多様な知識や価値観はチームの創造性に対する潜在能力を高めはするが、これまでにない発想の創出には心理的安全性が必要不可欠だったのである。
今後どう活かすのか
いま現在明示的にリーダーのようなポジションではないが、ミッションとしてより多くのひとの協力を得る必要がある。
また、プログラマとして携わっているプロジェクトも新規開発の毛色がとても強く、既存の枠組みにとらわれない発想やアイデアが求められている。
私自身はあまりムーンショット・非連続的なアイデアを出すのが苦手なので、組織としてそれらが生み出せるような立ち振る舞いを目指していきたい。