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Sep 30, 2021 - 15 minute read - Comments - review

[書評] 失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織

失敗の科学を読んだ。
「失敗から学ぶ」というと受け身な印象を受けるがそんなことはなく能動的に挑戦していく精神・方法を学べるいい本だった。

所感

表紙+帯が大分カジュアルだったので期待値は低かったがとても学びがある本だった。
失敗を活かすことで改善し続けている飛行機業界の話や、失敗を認められない心理が蔓延する業界とその心理的な理由など多くを学ぶことができた。
日々の業務の中でレトロスペクティブなど振り返りをする機会は多い。しかし自分がその中でどれだけ失敗から学び、それを今後に生かしているのかもっと機会を活かせそうだと思った。 また、失敗(検証)を繰り返しカイゼンを積み重ねていくアジャイルなアプローチはエンジニアリングだけではなくより汎用的なアプローチなのだとわかった。
失敗から学ぶ姿勢はあったものの、失敗を恐れず小さく失敗を積み重ねていく気持ちはなかったかもしれない。
「失敗から学ぶ」というと受け身な印象を受けるがそんなことはなく能動的に挑戦していく精神・方法を学べるいい本だった。

どんな本なのか

Amazon書籍紹介より引用。

なぜ、「10人に1人が医療ミス」の実態は改善されないのか?
なぜ、燃料切れで墜落したパイロットは警告を「無視」したのか?
なぜ、検察はDNA鑑定で無実でも「有罪」と言い張るのか?
オックスフォード大を首席で卒業した異才のジャーナリストが、医療業界、航空業界、グローバル企業、プロスポーツリームなど、あらゆる業界を横断し、失敗の構造を解き明かす!

なぜ読もうと思ったのか

仕事をしていると毎週のように反省することが多い。「また同じ失敗をしちゃったな…」ということも多々ある。 まだまだ実力不足なので成長する必要もあるけれど他人より成長速度が遅い気もしている。
より毎日の経験から目標を達成し成長し続けるために何が必要なのか読もうと思った。「失敗の本質」も良かったので失敗から学ぶ方法にも興味があった。

読んでわかったこと

読んでなるほどと思ったところをいくつかピックアップする。

失敗したほうがよいのか?

失敗したほうがよい。(医療業界のような失敗が生死に関わるような業界でなければとくに)失敗を恐れずに仮説・実行と検証を繰り返したほうがよい。
しかし、大事なのは「その失敗をどう活かすのか?」が問題になる。「何もせずに成功するまで失敗しようが続けろ」ということではない。
成功はどれだけ効率のいい最適化ループをつくれるかにかかっている

失敗を正しく捉えるには計測と記録が必要

大前提として失敗を活かすためには日頃から失敗したときの情報が確認できる状態でないといけない。

事故には、特定の「パターン」があるのではないか? 適切な対策をとれば、次の命を救えるのではないか? しかし医師たちにその「パターン」を知る術はなかった。その理由はシンプルだが衝撃的だ。医療業界はこれまで、事故が起こった経緯について日常的なデータ収集をしてこなかったのである。

失敗は、予想を超えて起こる(9)。世界は複雑で、すべてを理解することは不可能に等しい。だから失敗は、「道しるべ」となり我々の意識や行動や戦略をどう更新していけばいいのかを教えてくれる。
何か失敗したときに、「この失敗を調査するために時間を費やす価値はあるだろうか?」と疑問を持つのは間違いだ。時間を費やさなかったせいで失うものは大きい。失敗を見過ごせば、学習も更新もできないのだ。

チェス選手も看護師も、常に自分の間違いがチェックされ、その結果が出る。だからいやでも毎回考え直し、改善し、適応していかなければならない。これは「集中的訓練(deliberate practice)」とも呼ばれる。

計測をしていない失敗はそこから何も得られるものがない。 F1チームのメルセデスチームは小さなカイゼン(マージナル・ゲイン)を積み上げるためありとあらゆるデータを計測している。
たとえばピットストップで動きをデータで計測するため、ホイールガン(ホイールナットを締め込む工具)にまでセンサーがついている。 メルセデスチームはセンサーによってタイヤを外すまでに何秒かかったか、どんな角度でナットを締めたのかまで計測しカイゼンを行なっている。

失敗したらすぐにフィードバックを得る

そもそもフィードバックがなければいくら失敗しても意味がないのは当然として、時期を逃したフィードバックでも意味がない。

まず、失敗から学ぶためには、目の前に見えていないデータも含めたすべてのデータを考慮に入れなければいけない。次に、失敗から学ぶのはいつも簡単というわけではない。そんなときはこのケースのように、注意深く考える力と、物事の奥底にある真実を見抜いてやろうという意志が不可欠だ。

こうした診断力や判断力を高めたいときに大事なのは、熱意やモチベーションだけではない。暗闇に明かりをつける方法を探すことが肝心だ。間違いを教えてくれるフィードバックがなければ、訓練や経験を何年積んでも何も向上しない。

運動をしているときはリアルタイムでコーチから指導を受けたり、その場で動画を見返してフォームチェックしたほうがよいだろう。 その他の活動でもこれは当てはまる。

意識的に失敗を受け入れる

どんなに素直でも失敗を認めるのは難しい。何かしらの損害がでるようなインシデント・事故を自分の失敗と認めるのはなおさらだ。 しかし失敗を受け入れなければ失敗から学ぶことはできない。本著では失敗に対する心の持ちようをオープンループとクローズドループと呼んでいる。

  • クローズド・ループ
    • 失敗や欠陥にかかわる情報が放置。曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態を指す。
    • 失敗をなくそうと頭の中で考え続け、気づけば「今欠陥を見つけてももう手遅れ」という状態になっている。
  • オープン・ループ
    • 失敗は適切に対処され、学習の機会や進化がもたらされる。
    • まず戦略を実行に移し、有効かどうかを検証する。そこでうまくいかないことがあれば、問題を突き止めて改善する。

人は誰でも、自分の失敗を認めるのは難しい。ほんの些細な失敗でさえそうだ。友達同士の気楽なゴルフでさえ、自分のスコアが思わしくないと不機嫌になる。だから、仕事、親の役割など、自分の人生にとって重要なことで失敗を認めるのは、もう別次元の難しさになる。 何かミスを犯して自尊心や職業意識が脅かされると、我々はつい頑なになる。

研究によれば、人は失敗を恐れるあまり、度々曖昧なゴールを設定する。たとえ達成できなくても、誰にも非難されないからだ。失敗する前から、面目を失わずに済むよう逃げ場や言い訳を用意しているのである。

固定型マインドセットと成長型マインドセット。そしてGRIT(やり抜く力)

失敗を学習するためには経験から学ぶ姿勢も大事になる。本著では成長型マインドセットやGRITの事例も交えてこれを解説していた。

  • 固定型マインドセット
    • 知性や才能はほぼ固定的な性質だととらえている。
    • 「自分の知性や才能は生まれ持ったもので、ほぼ変えることはできない」と強く信じている。
  • 成長型マインドセット
    • 知性も才能も努力によって伸びると考える。
    • 先天的なものがどうであれ、根気強く努力を続ければ、自分の資質をさらに高めて成長できると信じている。
  • GRIT(やり抜く力)
    • 度胸(Guts):困難に挑み、逆境にたじろがない勇気
    • 復元力(Resilience):挫折から立ち直る力
    • 自発性(Initiative):率先して物事に取り組む力
    • 執念(Tenacity):どんなことがあっても物事に集中しつづける能力

マインドセットとGRITについての詳細は別の書籍を読むとよいだろう。

失敗から学習するためのシステムとマインドセット

組織が失敗から学習するためにはシステムとマインドセットが重要となる。マインドセットに関しては前述したとおり成長型マインドセットだ。

失敗から学ぶにはふたつの要素がカギとなることを見てきた。ひとつは、適切なシステム。もうひとつは、その適切なシステムの潤滑油となる、マインドセットだ。

失敗に関する人間の心理

人間が失敗と向き合う時に表出しやすい心理的傾向がいくつかある。

認知的不協和

認知的不協和は過ちを認めたくない行動の現れだ。カルトやネズミ講にハマって抜け出せない、株価が下がり続ける株を手放せない、判決が冤罪だと認められない…自分のミスを認めたくない時ニンゲンは矛盾を解消するため自己正当化を行ないはじめる。

多くの場合、人は自分の信念と相反する事実を突き付けられると、自分の過ちを認めるよりも、 事実の解釈を変えてしまう。 次から次へと都合のいい言い訳をして、自分を正当化してしまうのだ。ときには事実を完全に無視してしまうことすら

カギとなるのは「認知的不協和」だ。これはフェスティンガーが提唱した概念で、自分の信念と事実とが矛盾している状態、あるいはその矛盾によって生じる不快感やストレス状態を表す。

我々は外発的な動機より、自尊心を守りたいという内発的な動機のほうに支配されやすい。たとえ負け株を持ち続けて大きな損を出すことになっても、自己正当化を続けてしまうのである。

これらは立場、社会的地位がより上のニンゲンほど(間違いを認めると失うものが多いニンゲンほど)起こしやすい。
失敗から学習する組織になるにはこの人間心理を考慮したシステムが必要になる。

確証バイアス

確証バイアスは自分の意見が正しいという情報しか集めず、それを覆す情報を無視したり集めようとしない傾向のことだ。

同じ確認をいくら繰り返したところで、正解かどうかはわからない。しかし、もし戦略を変えて、自分の仮説が「 間違っているかどうか」を確認すれば、ずっと短時間で正解を発見できる。

まさに、確証バイアスそのものだ。バイアスの罠から抜け出すためには、科学的マインドセットが欠かせない。肝心なのは、自分の仮説に溺れず、健全な反証を行うことだ。我々はつい、自分が「わかっている(と思う)こと」の検証ばかりに時間をかけてしまう。しかし本当は、「まだわかっていないこと」を見出す作業のほうが重要だ。 哲学者カール・ポパーもこう言った。「批判的なものの見方を忘れると、自分が見つけたいものしか見つからない。自分がほしいものだけを探し、それを見つけて確証だととらえ、持論を脅かすものからは目をそむける。このやり方なら、誤った仮説にも(中略)都合のいい証拠をなんなく集めることができる

「では反対の立場から考えたらどうなるのか?」「私の主張ではなくBの主張を選択すれば今よりもっとよい結果になるのではないか?」といった選択を忘れてしまうと失敗を捉えることすらできなくなる。

生存者バイアス

生存者バイアスも失敗から誤った学習をしてしまう罠のひとつだ。 有名な生存者バイアスといえば統計学者エイブラハム・ウォールドが行なった「補強が必要な爆撃機のパーツはどれか?」の研究だ。 第二次世界大戦中、帰還した爆撃機を元データに調査していたが、本当に補強が必要なパーツは「帰還した爆撃機が損傷していなかった(被弾したら帰還できない部分)」だった。

外部からのプレッシャー

バイアスは内部的要因だったが、外的要因としてプレッシャーも存在する。 例としてあげられたいたのはまず組織や世間が失敗の当事者に対して外的に強いプレッシャーをかける場合だ。 「間違いを認めたら降格、批判の嵐になる」とわかっていて失敗を告白できるニンゲンはいないだろう。

適切な調査を行えば、ふたつのチャンスがもたらされる。ひとつは貴重な学習のチャンス。失敗から学んで潜在的な問題を解決できれば、組織の進化につながる。もうひとつは、オープンな組織文化を構築するチャンス。ミスを犯しても不当に非難されなければ、当事者は自分の偶発的なミスや、それにかかわる重要な情報を進んで報告するようになる。するとさらに進化の勢いは増していく。

ビジネス、政治、航空、医療の分野のミスは、単に注意を怠ったせいではなく、複雑な要因から生まれることが多い。その場合、罰則を強化したところでミスそのものは減らない。 ミスの報告を減らしてしまう だけだ。不当に非難すればするほど、あるいは重い罰則を科せば科すほど、ミスは深く埋もれていく。すると失敗から学ぶ機会がなくなって、同じミスが繰り返し起こる。その結果、さらに非難が強まり、隠蔽体質は強化される。

適切な形での責任の追及は、ミスの報告を妨げはしない。つまり、管理者が非難に走らず、時間をかけて本当に何が起こったのかを丁寧に調べる姿勢を見せていれば、部下は責任追及を恐れずに済む。プロとして堂々と事情を説明し、意見を言うことができる。

人間の心理を考慮したシステム

失敗から学習するのを阻害する人間のマインドセットに抗うのは難しい。克服するためにはシステムもまた失敗から学ぶシステムを整える必要がある。
システムとは「失敗電子レポート」のようなことを指しているのではなく組織文化のことだ。書籍の中では2つのアプローチが紹介されていた。

クルー・リソース・マネージメント(CRM)

航空機業界の例ではクルー・リソース・マネージメント(CRM)が一例として挙げられていた。乗務員が上下関係によって発言を萎縮しないためだ。
肩書きがあるメンバーや社歴の長いメンバーに対して「ものが言いづらい」、「反対意見が言いづらい」というような環境は失敗を正しく認識できなかったり、そもそも失敗が発生するの阻止できない。

懲罰指向をやめる

悪意を持って恣意的に失敗あるいは事故を起こしたりする人はほとんどいない。大抵の人は最善を尽くしていたとしても失敗をしてしまう。
そのような人が起こした失敗に対して罰を与えるとどうなるか?失敗は報告されなくなり、不要なストレスから新たな失敗が発生するリスクも増える。

懲罰志向のチームでは、たしかに看護師からのミスの報告は少なかったが、実際にはほかのチームより多くのミスを犯していた。 一方、非難傾向が低いチームでは、逆の結果が出た。ミスの報告数は多かったが、実際に犯したミスで比べてみると、懲罰志向のチームより少なかったのだ。

ビジネス、政治、航空、医療の分野のミスは、単に注意を怠ったせいではなく、複雑な要因から生まれることが多い。その場合、罰則を強化したところでミスそのものは減らない。 ミスの報告を減らしてしまうだけだ。不当に非難すればするほど、あるいは重い罰則を科せば科すほど、ミスは深く埋もれていく。 すると失敗から学ぶ機会がなくなって、同じミスが繰り返し起こる。その結果、さらに非難が強まり、隠蔽体質は強化される。

この看護師長はある意味典型的な 職務怠慢だ。自分が管理するシステムの複雑さに正面から取り組まず、非難することにただただ躍起になっていた。 失敗をオープンに報告できる環境作りをせず、スタッフがその失敗から学ぶことを妨げていたのだ。 ミスの適切な分析を伴わない非難は、組織に最も頻繁に見られ、かつ最も危険な行為のひとつである。こうした懲罰志向は、「規律と開放は互いに相容れないものである」という間違った信念の上に成り立っている。

失敗に罰を与えずとも規律ある組織は成り立つ。

失敗から学ぶためのアプローチ方法

失敗を活かすあるいは小さな失敗やカイゼンを高速でループされる手法として本著では4つの方法が紹介されていた。

マージナル・ゲイン、リーン・スタートアップ、RCT、事前検死……本書では、進化のメカニズムに秘められた無限の力を活かす様々な手法を検討してきた。状況に応じて活用し、成長型マインドセットを持ち続ければ、どこまでも可能性が広がる進化のプロセスを力強く歩んでいけるだろ

  • マージナル・ゲイン
  • リーン・スタートアップ
  • ランダム化比較試験(RCT)
  • プレモータム(プレモーテム)

プレモーテムは物事を実施する前に失敗ケースを想像し挙げてみる手法だ。やる前から(想定)失敗ケースのフィードバックを得られる。 考えるだけならばブレインストーミングでも行なって半日で実施できるだろう。 これは中長期的なタスクを行うまえや要件の洗い出しをするときにものすごい威力を発揮しそうだ。

今後どう活かすのか

幸いなことに人より多く失敗している気がするので成長する機会はとてもある。 いつも失敗しても週報を書くタイミングなどでしか思い出さないので個々の失敗に対してきちんと振り返れていなそうだ。 まず振り返りをもっと素早く行なうことでフィードバックループを回していければと思う。

参考リンク

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